うっかりエンジニアのメモ

未来の自分に宛てたメモ

ニュー・シネマ・パラダイス

※2012年の日記をサルベージ。

高校の頃付き合ってた彼女は,映画監督を目指していた.
頭も良くて,本も沢山読んでいた.当時図書委員だった僕なんかより,ずっと沢山.吹奏楽部でOb.を吹いていたのもあってか,音楽の大切さもわかっていて,そしてちょっと人付き合いが不器用だった.
もう数年会っていないし,メールのやり取りもない.まったくの音信不通である.
彼女は結局,映画監督になったのだろうか??

そんな彼女がこよなく愛していたのが,この映画だった.
当時,この作品は必ず観てほしいと何度も勧められていたが,あらすじだけ聞いた感じだと自分にはピンと来るものが無く,エンニオ・モリコーネ氏の音楽だけ気に入って何度も聞いていた.

そうやって,僕のiPhoneには6年前からこの題名のアルバムが入っている.

最近,そういえばこれは映画音楽だったと思い出し,DVDを買ってきた.
今日やっと本編を観ることができた.

…なんで僕は,今までずっと観てこなかったのだろう.
ラストの,つなぎあわせたフィルムを主人公が試写室でひとり観るシーンは,ひたすらに切なかった.

舞台は映画館のある小さな村.幼少を映画技師の男アルフレードと過ごした少年トトが初恋,徴兵,挫折を経てやがて大人になり,村を捨てて一人前の映画監督として巣立つ.しかし,ある晩に電話で映画技師の死を知る.彼は葬式へ参列するため,30年振りに故郷に戻ることとなる.

お話としては,こういうことだし,映画の最初から最後まではたった1日の話.
しかしほとんどを占める主人公の回想シーンで,アルフレードがトトに語りかける台詞が素晴らしい.

「自分のすることを愛せ。子供の時、映写室を愛したように」

「人生は、お前が見た映画とはちがう。人生は、もっと困難なものだ」

当時,トトは青年に成長していた.しかし徴兵がきっかけで初恋の相手エレナと音信不通となる.失意のどん底にあるトトに,アルフレードが投げかけたのが上の台詞.

アルフレードは年齢が離れているが,トトの良き理解者だった.トトをなぐさめ,エレナとの恋路を応援する選択肢もあっただろう.しかし,アルフレードはトトと接する中で,トトの映画監督としての素養と映画に対する並々ならぬ愛を感じていた.だからこそ,アルフレードはトトに,夢を目指してほしかった.”郷愁に惑わされ”村に留まって映画技師を続けた自分の様な人生を,彼には歩んでほしくなかった.…愛するトトだからこそ.彼の愛はいつだって不器用で,そして深かった.それは最後のシーンでトトが観る,アルフレッドが遺したフィルムにも表れている.

この映画の良さに6年前に気付いていた彼女は,今いったいどんな感性を持っているんだろうと,ふとぼんやり考えてしまった.トトが恋と郷愁を捨てて,将来の夢のために知らない土地を目指していったように,彼女もまた,僕との恋を捨てて夢のために歩く決意をしたのなら,ほんとうに彼女はかっこいい人間だと思う.

ジュゼッペ・トルナトーレという名監督を教えてくれた点も,感謝したい.

ほんとうに,いい映画だった.